M&Aにおいて、買い手企業は、財務、税務、人事労務、法務など様々な側面でリスクを負うことになります。今回は、M&Aにおける人事労務リスクとそれを回避する手段などについて解説します。
M&Aにおける人事労務リスクの例としては以下の3つがあります。
①買収後に売り手企業に重大なコンプライアンス違反があったことが判明する
賃金や残業代の未払いがあった、休日・休暇の取得が適性に行われていなかった、従業員への健康や安全確保を懈怠していた、ハラスメント問題があったなど、これらのコンプライアンス違反が明るみになると企業のイメージダウンに繋がります。労使トラブルへと発展してしまえば、訴訟問題となり、財務面でも人的リソース面でも大きな損失となる可能性が生じます。
②買収後に給与体系など待遇面が大きく変わり、従業員の士気が大きく下がってしまう
買収後に経営者が変わり、様々なルールが大きく変更されることがあります。特に給与体系や評価制度の変更、コスト重視の経営判断が下ることにより、従業員が右往左往することになったり、仕事へのモチベーションを大きく下げてしまうことがあります。
③従業員との信頼関係が構築できず、離職に繋がってしまう
今後の新たなビジョン、大幅なルール変更、人事異動、異動後の業務内容、給与体系など重要事項について、従業員への説明、理解が上手く進まなかったことにより、大量の離職者がでてしまうことがあります。
特に②は、キャリア面談の際、転職を検討し始めたきっかけや転職理由として、よくお聞きする点です。このリスクを事前に把握して、押さえておかないと結果として③の大量の離職へ繋がることになります。
これらの人事労務リスクを低減するためには、買収前に専門家による労務デューデリジェンスをしっかりと行うことが重要です。労務デューデリジェンスとは、企業の人事や労務に関する実態を知るための調査のことです。企業の労働環境や雇用関係について、問題点やリスクを特定し、問題解決の提案やリスク回避策を提示することを目的として行います。労務デューデリジェンスは、M&Aなどの取引において、企業評価や投資判断に欠かせない要素とされています。
それでは、この労務デューデリジェンスは誰が行うのが適切なのでしょうか?一般的には外部の専門家に依頼します。人事労務の専門家といえば、労働関係の事例や知識、経験に長けた社会保険労務士の依頼がもっとも安心できると思われます。M&Aは会社にとって、一大イベントであり、成功へ導かなければなりません。社会保険労務士など人事労務の専門家の知識と経験を活用しながら、成功に結び付けたいものです。